はじめに:AIは中立ではない
AIは「便利な道具」ではない。 少なくとも、現在の社会構造においてはそうではありません。
AIは常に、どの指標を最大化するために導入されるのかという目的を背負って実装されます。 そして今の資本主義社会で、その目的はほぼ例外なく ROE(自己資本利益率) です。
効率化、生産性向上、人手不足対策。 言葉は柔らかいですが、実態は一貫しています。
人を減らし、コストを削り、数字を美しくする。
AIは価値中立な存在ではなく、 ROE至上主義を最も速く、最も徹底して実現する加速装置として機能しています。
1.ROE至上主義が「社会設計」になった瞬間
ROEは本来、企業経営の健全性を測るための指標でした。 しかし現在では、指標が目的化しています。
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人件費は「削減余地」
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雇用は「固定費リスク」
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人間は「代替可能な要素」
こうした発想は、もはや一部の企業に限った話ではありません。 市場全体が 「ROEが低い企業=悪」 という価値観で統一されている。
その結果、社会全体で次のことが起きています。
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働いても報われない層の拡大
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スキル再教育を受ける余力すらない人の増加
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「不要」と判断された人間の不可視化
これは失敗ではありません。 ROE至上主義が論理的に行き着く、正しい帰結です。
2.AIが決定的に変えたもの
AI以前も、効率化は進んでいました。 しかしAIがもたらした変化は、量ではなく質です。
それは、 **「人間が不要になるスピード」と「逃げ道の消失」**です。
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ホワイトカラーは思考ごと代替される
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現場作業は秒単位で価値を失う
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「経験」や「年齢」は重荷になる
重要なのは、ここで代替される側に 拒否権がない ことです。
企業は合理的にAIを導入し、 投資家は合理的にそれを評価し、 社会は合理的にそれを受け入れる。
では、その合理性から排除された人間は、 どこへ行くのでしょうか。
3.「失うものがない人間」というバグ
ROE至上主義は、暗黙の前提を置いています。
人は合理的に行動する 損得で判断する 失うものを恐れる
しかし、この前提が崩れた瞬間、 システムは一気に脆くなります。
仕事も、地位も、尊厳も失い、 「もう失うものがない」と自覚した人間は、 もはやROEにも市場にも従いません。
この存在は、
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交渉できない
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説得できない
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インセンティブが効かない
つまり、システムにとってのバグです。
ここで言う「カウンター」とは、 理想論でも革命思想でもありません。
合理性を捨てた個人が、 合理性で設計された社会を無効化する
という、純粋な力学の話です。
4.統治側が最も恐れているもの
国家や市場が本当に恐れているのは、 貧困そのものではありません。
恐れているのは、
「このゲームには、もう参加しない」
と宣言する人間が増えることです。
だからこそ、
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株価は守られる
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エンタメは供給される
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表面的な炎上だけが処理される
これは陰謀ではなく、治安維持の合理化です。
ROE至上主義で社会を締め上げながら、 同時に「麻酔」を切らさないようにする。
その均衡が崩れた瞬間、 カウンターは表に出てきます。
5.結論:これは脅しではなく、結果である
この文章は、 「こうすべきだ」という提案ではありません。
こう設計した以上、こうなる
という結果の記述です。
AIでROE至上主義を加速させた社会は、 必然的に「合理性が通じない人間」を生み出します。
それは失敗ではなく、 このシステムが正しく動いた証拠です。
希望がないのではありません。 希望を前提としない社会を、先に選んだだけです。
その社会に対して生まれるカウンターもまた、 感情ではなく、論理の延長線上にあります。