中央銀行が金利を引き上げ、政府が物価対策を講じても、なぜインフレの波は収まらないのか。
多くの人々が抱くこの疑問は、もはや「需要と供給のバランス」や「通貨の量」といった従来の経済学では十分に説明できません。
その真因は、世界が「効率性」を捨て、「分断」を選んだことによって生まれた、
**OPEC(エネルギー)と中国(資源・加工)が支配する“構造的インフレ”**にあります。
1. 「安さ」の時代の終焉:効率性から安全性への転換コスト
かつての世界経済は、
**「最も安く作れる場所で作る」**というグローバリゼーションの論理で動いていました。
- 西側は環境負荷の高い加工産業や資源精製を中国に外注
- エネルギー供給はロシアや中東に依存
- その結果、過去に例のない低インフレが実現
しかし、米中対立やウクライナ戦争が、その前提を根底から破壊しました。
いま各国が最優先するのは「安さ」ではなく、
**「敵対国に依存しないこと(安全保障)」**へと変わっています。
この“安全保障への転換コスト”こそ、現代インフレの中心的な原因です。
2. OPECの逆襲:エネルギー価格の「自律化」と高止まり
エネルギーはすべての経済活動の血液ですが、その蛇口を握るOPECの態度は大きく変化しました。
かつては西側諸国の要請に応じて増産していた産油国も、
脱炭素化による「将来的な需要減」を見越し、
「稼げるうちに稼ぐ」戦略へと移行しています。
- 価格の武器化:原油価格を高く維持し、国内財政と政治安定を確保
- 供給を政治利用:どの陣営にも完全に与せず、供給量調整で巨大な交渉力を得る
エネルギー価格の高止まりは、
運送費、電気料金、プラスチック、食品加工など、
経済のあらゆるコストを底上げし続ける構造を生みます。
3. 中国の支配:「グリーン・インフレ」と汚い仕事の代償
脱炭素(グリーン転換)を目指す西側諸国は、深刻なジレンマに直面しています。
EV、太陽光パネル、風力発電…。
こうした“未来産業”のサプライチェーンにおいて、
中国は絶対的支配者となっています。
インフレを生むボトルネック
- レアアース精製・加工の独占
→ 西側が嫌がった「汚い工程」を中国が担い、中国が価格の主導権を握る - 輸出規制による報復
→ 半導体規制の対抗措置として、ガリウム・ゲルマニウムなどを制限し、世界の製造業に打撃
もし西側が「脱中国」を選べば、
高コストな国内工場の整備や、第三国への再投資が必要になり、
その莫大な再構築コストはすべて物価に転嫁されます。
4. 金融政策の限界:利上げでは「供給」は増えない
現代インフレの本質は、需要過多ではなく供給制約です。
金利を上げても、
- 中東の油田が増えるわけでも
- レアアースが安く手に入るようになるわけでもない
つまり中央銀行には打ち手が限られています。
さらに悪化させる要因
企業は、
に備えるため、在庫を積み増し、調達ルートを分散します。
この**「リスクプレミアム」**は恒久的に価格に上乗せされ、
インフレは構造化・固定化していきます。
結論:インフレは「分断された世界」の入場料である
私たちが直面している物価上昇は、一時的でも一過性でもありません。
それは世界が「一つの市場」から「対立するブロック」へと分裂する過程で、
避けて通れない**“入場料(代償)”**です。
そのすべてを同時に満たすことは不可能です。
OPECと中国が資源と加工の“実弾”を握り続ける限り、
この構造的インフレは、分断時代の**新たな常態(ニューノーマル)**として、
長期にわたり私たちの生活を圧迫し続けるでしょう。